あれは妻が二人目の子供を妊娠していたときのことでした。前の子供を授かったときから既に6年経っていましたが、二人目ということもあり、僕も妻もけっこう経験者的な余裕を持って楽観視していたと思います。
ある土曜日の朝でした。
僕たち二人は、この日めずらしく早起きして朝食をとったりテレビを見たりして早起きの得した感じに浸っていました。このとき上の子は車で20分程のところにある、おばあちゃんの家に泊まりに行っていて家にいるのは僕たち夫婦だけでした。
午前7時過ぎに二人で朝食後の薄いコーヒーを飲みながらテレビを見ている時に、妻が「なんかお腹が妙な感じ…」と言うので僕は「病院いく?」と聞いたのですが妻の答えは笑いながら「気のせいでしょ!大丈夫大丈夫!」というものでした。このときは確か出産予定日から10日ほど前でした。
前回の出産のときは予定日を過ぎても一向に生まれる気配がなくて陣痛が来る前に入院して出産したので、僕たち二人は「今回もそんな感じで時期が来ても生まれる気配がなければ病院いけばいいか」くらいに思っていました。実際そんな会話もしていました。
それからしばらくたって午前8時をまわった頃に妻が台所で「あれ?やっぱり妙な感じかも…」とつぶやきました。僕は駆けよって「なんか変?」と聞いたのですが妻は「やっぱ気のせいかな…」というので、「大丈夫だよ心配することないって、いざとなったら病院行けばいいしさ」なんてのんきな台詞をはいて僕はテレビを見ていたソファーに戻りました。
それから30分ほどたったとき、妻がもう一度「やっぱり妙な感じ」と言うので、「生まれそうなの?」と聞くと「わかんない」と妻の返事。僕はこのときめずらしく冷静にこう妻にいいました。「念のため病院に行こう、行って何もなくてもただそれだけじゃないか」と。妻もうなずいて僕らは急ぐわけでもなく着替えて支度して車に乗り込みました。走り出して5分ほどたったとき、妻が助手席で「やっぱ変…」と言うので僕は「これは急がなきゃ!」と病院までのコースを高速に切り替えて走りました。
病院について受付まで行って(妻はこのとき不安な感じでしたが一緒に歩いて受付まで行きました)事情を話すとすぐに看護師さんたちが車椅子を持って来てくれて、あれよあれよという間に妻を連れて行っていましました。しばらく呆然とした感じで待っていたのですが、看護師さんがやってきて「もう生まれますよ!」のひとこと。「え?」僕は仰天しました。
結局無事二人目の子供が生まれて一件落着だったのですが、あのとき「念のため…」の行動を控えていたら大変な事態になったのではないか、と背筋がひんやりとします。出産には「念のため」行動が大事なんだと身にしみて分かったのでした。