反抗期の娘が体験した母の出産と父の願掛け

私の両親は、私を早く産んでいたため、高校生で初めての弟を母が出産の場を体験するという少し珍しい展開がありました。

高校生という年頃の反抗期で学校と部活やバイトに明け暮れ、母の手伝いを全くしていませんでした。そんなある日、バイト後に友人と少し遊んで帰宅が遅かった私に喝を入れてきたのは、臨月でまん丸としたお腹を抱えた母でした。下駄箱に着き次第、ラップの芯が私の足元と頭に2つ飛んできたのを覚えています。さすがに妊婦に歯向かうのはストレスになると思い「はいはい」とただ頷いて流していました。

2時間後、喧嘩をしていて私と母は、それぞれ別々の部屋にいたのですが、母の様子が急変し、私は父に電話をしました。喧嘩が原因でお腹の子に何か影響が出てしまったのかと心配になり、はじめて何も手伝って来なかった自分を責めました。

帰宅後の父の顔を見て安心したのかなと期待して母の顔を覗くと、穏やかどころか険しい顔をしおり、 「あなた、早く病院に行く準備をしないといけないの。思ったよりも少し早くきちゃって。娘と喧嘩してて準備もまだできていない。そのまま入院になるかも・・・下着とかパジャマ色々カバンに入れないといけないのに動けない!早くやって!」 と痛苦しそうに叫んでました。

驚いた父は「はい!すぐやります!」と急いで寝室に向かい、身支度を始めました。

父を待って時計の針だけがカチカチと鳴っている静かさの中で、ボーっと立っている私を見た汗だくの母親は私をこっそり呼び、「喧嘩は一旦中断、ここからは女同士の真面目な話で、あなたにお願いがあるの。お父さんの様子が心配だわ。とりあえず着替えは少量あればいいの。私を病院に送ったら、また後でゆっくり持ってきたらいいのよ。お父さん、パジャマと下着を作るのに羊の毛を刈りに行ったのかも。お父さんを見てきてくれる?」と頼まれたので、寝室に向かいました。

父が準備しているカバンを覗き込むと、中に入っていたものを見て母の言葉の意味が全て理解できました。 「え、お父さん、それお母さんのじゃなくてお父さんのパンツとパジャマじゃん・・・しっかりしなよ」 「あぁ、お母さんのも必要だったね。どこだっけ?」 「お母さんのも?もってなんだろう・・・ここだよ、お母さんのが入っていないとダメじゃん。」 「あぁ、助かる・・・。」 「それと、なんでビスケット菓子も入れてるの?」 「お母さんがこのビスケット好きだからだよ。出産して元気な姿でまた美味しいねって食ってもらうんだ。僕のパンツは産んだ後にお母さんから日頃から家事しないからって説教してもらわないとだね。」 と笑った父親がいました。

母の元に戻ると父は車を出してくると駐車場へ向かいました。待っている間に汗だくな状態でカバンの中をチェックすると、「やっぱりお父さんのパンツが入ってる。それと、このビスケットは病院で食べれないわよ。」さっそくツッコミを入れる母親に「お父さんのパンツとビスケットは無事出産できるための願掛けなんだってさ」と言葉を返しました。その言葉だけで険しかった母の顔が「仕方ないわね、頑張ってこなくちゃだね」という穏やかな顔になりました。

このことを体験した反抗期の娘は、その時、良いお姉ちゃんになる目標と、将来結婚するならこういう家族がいいなと感じたのでありました。